イノベーティブな企業でのデータを活用した
新商品開発の裏側
「世界の農業の頭脳を創る」というミッションのもと、株式会社ファームノートは酪農・畜産分野でIoTサービスを提供する企業です。新規就農者の育成支援や熟練者の勘の可視化を目指し、牛の健康の一括管理などの画期的なシステムを提供しています。酪農・畜産分野における生産性や働き方の向上に寄与する事業として、2019年には第5回「日本ベンチャー大賞」 農林水産大臣賞を受賞、また2020年には第8回「ものづくり日本大賞」 内閣総理大臣賞を受賞。GRIではその商品開発をデータ分析やAIアルゴリズム開発の面でサポートしています。今回はその新商品開発の秘訣を開発の統括マネージャーである阿部様に伺いました。
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株式会社ファームノート
プロダクト開発統括マネージャー阿部剛大 様
ファームノート社の製品である牛群管理システム「Farmnote」、および牛に装着するウェアラブルデバイス「Farmnote Color」の開発統括を担当。
主に、エンジニアとプロダクトのマネジメントをおこなう。
プロジェクトが発足した経緯
事業の急拡大に伴う
データ分析リソースの不足
プロジェクトでの気付き
最新の分析手法による
アプローチを活かす
ファームノートはドメイン中心の手法でデータに向き合っています。これはヒューリスティック(経験則)を中心にしたもので、個別の事象を、例えば100頭なら100頭分のデータを目視で照らし合わせ、人間の勘と経験から予測モデルを組み上げていきます。この過程は、責任を持ってお客様への品質担保をするためにも必要だと思っており、時間をかけたい部分になります。
このような進め方に対し、GRI社との取り組みでは、効率的な手法と最新の手法をどんどん適応してブラッシュアップしていく過程に取り込みました。精度が適度に良くなったところで、製品を最終的にエンドユーザーに届けるステップとしてヒューリスティックスを当社で組み込みました。そうすることで品質の担保、そして当社が対象としている顧客と技術の間の翻訳に集中することができました。
プロジェクトの成果
体感できるほどの精度の向上、
広がった見識
GRI社との取り組みで得たのは色眼鏡なしにデータを見て、データから何かインサイトを見つけるという手法です。客観的に最大公約数を良くしていくアプローチとヒューリスティックなアプローチを一人の人間がやるのは本当に難しいと感じ、この2つを切り離してパートナーと一緒に進めるのが、良い投資の方法だと感じています。
プロジェクトの成果としてはまず精度が上がりました。ForecastFlow(GRI社の自動機械学習ツール)で、特徴量を絞り込んでいただいたものを既存のアルゴリズムに取り込んだ結果、現実に使っているお客様が体感できるほど精度が上がりました。
牛の飼い方は大きく分けて2つあります。牛が自由に歩けるように飼う「フリーストール」、そして牛を紐やチェーンで繋いで一つの場所にとどめておく「つなぎ飼い」があります。ファームノート社の製品であるウェアラブルセンサーは牛の動きをデータとして収集するものなので、動きが比較的少ないつなぎ飼いでの検知精度は物足りない時もありました。GRI社と細かい分析をやらせていただいて、従来では難しいと言われていたつなぎ牛での発情検知をほぼフリーストールと遜色ない精度まで上げることができました。
GRI社と関わる中で自分たちの見識が広がるとか、知らなかったことに対してのナレッジやノウハウが貯まっていくというのが定性的な成果です。GRI社は単純なアウトプットを出すというよりは、GRI社のスペシャリティと当社のノウハウがうまく掛け合わさってどんどんナレッジが貯まって深くなっていくという特徴を感じています。
プロジェクトの進め方
事業理解があるので、
安心して任せられる信頼感がある
GRI社を多くの外部パートナーと比較すると、当社のドメインや事業に対して一番よく理解した上で要所要所で成果を出していただける。日々の状況が変わる中で、かなり柔軟に対応いただいています。本当に感謝しています。我々はデータ分析に関してはドメインの知識はあるにせよ、直近の新しい手法を試していくのは難しいと思っています。分析手法に関するたくさんの情報が出回っているなかで、当社のニーズないしは各要求に対して正しく選択して頂いていると感じています。逆に甘えすぎてしまうのが悪いところかもしれません。
そして、ひと言で言うと「やりやすい」というのが正直な感想です。GRI社だから安心して任せられる。具現化が難しい悩みや困りごとの本質を理解しようと動いてくれています。どこからか論文を引っ張ってきて、それをただフィッティングすればいいでしょ、みたいな進め方をしない所に信頼感が持てます。それはアウトプットに対するコミットメントの高さだと感じています。GRI社はビジネスの本質を理解した上で、手法の選択やプロジェクトの進め方を検討していただいているように感じています。
一般的な外部パートナーはこちらからハンドリングしないと進まない場合が多く、当社側のオーナーシップが強いと感じています。そういう状況だと外注コントロールは部下に権限移譲しづらくなります。GRI社は発注元の責任を考えなければいけないところまでを柔軟に関わっていただいているおかげで、部下にまるごと任せても最終的なアウトプットの品質が高く、案件管理という所も安心感が強いです。
ファームノート社の今後の展望
センサーの事業は数百台からスタートして、現在は膨大な数のセンサーが牛に装着されています。このセンサーから、高頻度でデータを収集しているのはかなり面白く、第2第3の大きなサービスを提供していきたいと思っています。それは、農業という枠に縛られていないものかもしれないです。弊社バリューの1つであるConnectedをキーワードに、様々なデータをつなぎ、人と動物をつなぎ、更に生産現場へ良い影響を提供できればと考えております。
個人的にも都市計画や宗教の成り立ちなど、すごく大きなものが動いていくところに興味があります。もともとの専門が離散数学のネットワーク科学であり、様々なモノのつながりによって発生するダイナミズムに興奮を覚えます。そのつながりのダイナミズムの中で見つかるアイデアを実証していきたいです。
社名 | 株式会社ファームノート |
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URL | https://farmnote.jp/ |
センシング事業の立ち上げ直後、「Farmnote Color」の販売台数が急上昇しました。しかしながら、ここで問題が発生しました。酪農の現場には色々な牧場があるため、多くの牧場に導入されたことでファームノートで持っていた予測モデルにフィットしない例外パターンが出始めてしまい、原因を探るためのデータ分析できるリソースが不足しました。社内のエンジニアは酪農現場の理解に集中させたかったのでデータ分析に多くの時間を割けない状況でした。そういうなかでデータ分析専業のGRI社を知った形になります。
まず始めに、飼育牛の発情予測モデルの改良も実施しました。それにより、牧場ごとの飼い方の違いによる精度の違い、そしてホルスタインや肉牛などの牛種の違いによる精度の違いを克服しました。成果の出た主なポイントは特徴量エンジニアリングによるものです。さらに牛舎に設置したカメラの画像から各飼育牛を特定する画像解析アルゴリズムのプロトタイプの作成やモックの検証も依頼しました。